ゲームソフトの新潮流を作り出せ! WonderWitchで広がりゆく「ホビープログラミング」の世界 |
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グランプリ受賞のM-KAI氏(右) | ||
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もっとも、この日の最終選考会に駒を進めてきた各応募作品の「レベルの高さ」について語るうえで、開発にごく短期間しか与えられていなかったという注釈はとくに必要ないだろう。事実、コンテストの審査委員長である佐藤 治氏((有)キュート プレジデントCEO)は、「応募作品のレベルが、まったくわれわれの予想を超えたものであるとは言わないまでも、実際にこれだけのレベルの高い作品が揃うとは、正直考えていなかった」と感想をもらす。
もちろん、ここで言う「レベルの高さ」は、ことさらにプログラミング技術についてだけに限った話ではない。とりわけ、ユーザーを惹きつけるユニークな着想といった点において、きわだった「レベルの高さ」を持った作品が多く目に付いたことがとくに印象に残る。つまり、ユニークな発想を引き出すためのツールとしてデザインされたWonderWitchの、まさに面目躍如たる側面が、今回のコンテストで浮き彫りにされた格好だ。
たとえば、準グランプリを獲得した長 健太氏の「なめとらい」(Nametry)などがその典型的な例だろう。このゲームは、本来であればゲーム終了後に実施するハイスコア獲得者のネームエントリ(名前入れ)をそのままゲーム化したものだ。具体的には、“Game Over”のメッセージ表示からゲームが開始されるという人を食った内容となっている。たとえば、である。仮に、PCなどの既成ゲームプラットフォーム上での動作を前提にこのゲームの着想を得たとする。そうすると、おそらくはそれが、これまでのゲームの既成概念から大きく逸脱するものであることから、単なる“一発ギャグ”ネタとして、着想自体が作者の心の中からはかなくも潰え去るという結果になったかも知れない。これに対し、WonderSwan自体の携帯ゲーム機というプラットフォームとしての手軽さ、親しみやすさ、そしてWonderWitchというツールの存在が、「なめとらい」のユニークな発想をゲームとして無理なく結実させる要因となったと言えるのではないか。そうした意味では、作者の長氏が言うところのこのゲームのコンセプト「エンターテイメントは“へなちょこ”ステージへ」というパラダイムシフトの原動力として、WonderSwan、WonderWitchが果たした役割は大きいはずである。
また同様の観点から、審査員特別賞を獲得したBlue Sky氏の「いぬ れんだ」についても言及しておきたい。このゲームはただひたすらボタンを連打することによって、画面左に表示された犬を移動させ、右側のゴールに到着するのに要する時間を競うというものだ。実に単純至極であるが、やってみると確実にハマる。Blue Sky氏によれば、氏自身、プログラミングに関しては「趣味でちょっとわかる」程度であり、この「いぬ れんだ」の「肝となるソースコードはたった4行」であるらしい。まさにこの手軽さと、とっつき易さこそが、WonderWitchの標榜するところの「ホビープログラミングの世界」なのだと言えるだろう。
さて、肝心のグランプリ受賞作にも触れておかねばならないだろう。WWGP2001の栄えあるグランプリに輝いたのはM-KAI(えむかい)氏の制作したシューティングゲーム「JUDGEMENT SILVERSWORD」であった。ゲームの内容はというと、宇宙空間とおぼしき画面の、前方からやってくる敵エイリアン艦隊の攻撃を避けながら敵機を攻撃し、最終的にはボスキャラ撃破するという、「例の」ゲームだ。要するに、この作品自体はゲームとしてはきわめてオーソドックスなものであり、その開発に着手することは、まさにゲームの“王道”に対するチャレンジだったと言える。結果として、M-KAI(えむかい)氏は、操作性や画面サイズといった携帯ゲーム機の持性に正面から取り組み、決してアーケードゲームのミニ版などではない、WonderSwan上の本格的シューティングゲームを「JUDGEMENT SILVERSWORD」において完成させた。その完成度の高さと真摯な取り組みがグランプリ受賞というかたちで報いられたというわけである。
ところで、この日プレゼンテーションが実施された予選通過20作品を大まかに分類してみると、ゲーム、アミューズメント関連が13件、WonderWitch用プログラミングサポートツール関連が6件、そしてその他のユーティリティツールが1件という結果であった。携帯ゲーム機であるWonderSwan上のプログラムがゲーム、アミューズメントの方向を志向するのは、きわめて当たり前の話だが、プログラミングサポートツールが20作品中6件を占めたことは注目に値する。発売以来これだけの短期間で、多くの優れたツールが提供されてきたという事実は、WonderWitchによるプログラミングの世界が、多くのユーザーの間に急速に受容されたこと、そしてその世界をさらに拡大していこうとする機運、つまりWonderSwan、WonderWitchに対する大きな期待がユーザーの間に育まれてきていることの証しにほかならない。一方で、WonderWitchが製品としてサポートできるプログラミング環境には、自ずと限界があるということもまた事実だろう。もちろん、今後WonderWitchの側でも、使い勝手やツール、プログラミングの容易さなどの点において、さらなる改良が施されていくことになるだろうが、各方面のユーザーが自発的に自らの開発したツールを提供しあうことが、WonderWitchのユーザーコミュニティを、ひいてはホビープログラミングの世界を、さらに拡大し楽しめるものにすることにつながるはずだ。
最後に、今回のコンテストの最終選考会に参加した感想を述べておきたい。当日は午後1時から20組の予選通過者がそれぞれ5分の割り当てで、順次自分たちの作品のプレゼンテーションを行なったのだが、ユニークなのは作品ばかりではなかった。各作者のプレゼンテーションは各人各様の工夫がこらされたもので、参加者の爆笑が絶え間なく会場全体に響き渡るという状態であり、大いに盛り上がった。コンテストという趣旨を離れて、このプレゼンテーションだけをとってみても、1つのイベントとして十分楽しめるものであったと言える。
そこで、提案である。第2回以降は、この最終選考会をもっと一般に開かれたイベントとし、誰でも自由に参加できるものにはできないだろうか。ゲーム機としては異例とも言える、誰しもが気軽にゲーム機向けのソフト開発に参加できるという開かれた世界を提供しているWonderSwan、WonderWitchなのだから。