:G/rom0/boy.fr :E「クビだ!! 」  俺は肩をすくめて、含み笑いをしてる 奴らを睨んでから、フィールドを ゆっくり歩き出た。  俺の名前は、ホーク・アルカンド。 マディス国のプロ・フットボーラーだが サッカー選手とか呼ぶ国もあるらしい。 そこそこ名前は売れてるんだが、 審判と喧嘩して、退場する方が有名だ。 勝つ事にこだわり過ぎるらしいんだが、 プロだったら当たり前だろう?  怒った時に、顔が色白なせいか ピンク色になるらしくって、 パスの正確さと併せて [ピンク・パッサー]なんて、 変なあだ名を付けられちまった。  18の時に、代表選手に選ばれたが、 膝をやっちまって思い通りのプレイが 出来なくなった。 4年経って、医者が言うには治ってる らしいんだが、イマイチな感じだ。  めでたく5回目のクビになったし、 さーて、これからどうするっかな? まずは飯でも食うか、と広場へ行くと 何やら人が集まっている。  何か叫んでる男がチラシを配っていて 一枚貰うとこう書いてあった。 「急募!!  ルウム国で、フットボール代表選抜  セレクションを行う。  採用者には特典アリ」 一人の男が、配っている男に聞いた。 「おい、この特典って何だ?」 「さてなぁ?  それは、行ってからのお楽しみだ!」 「何だそりゃあ!!  あんなショボイ所に、訳も分からず  行けってのか! 」 一斉にブーイングが起きた広場を 後にしながら考えた。 『どうせ、もう代表に呼ばれるはずは  無ェしな。  うさん臭いが、試しに行ってみるか』  今年の4年に一度の祭典、 WarCup の代表選手には特別な 意味がある。 何十年と続いていた世界戦争の代りに、 この大会で勝敗を決めて、 優勝国が最下位国を獲れる、って事に なってるからだ。  このバクチみたいな大会は、小国が 大国に勝てる方法として考案されたが、 何か裏があるのか、大国しか優勝して 無い。  この国の存亡を賭けた大会に、 市民は熱狂し、代表選手に様々な 将来を与えてくれる。 天国も地獄も・・・。  馬車に揺られて3日、ルウム国に 到着すると、険しい山々に囲まれた街が 見えて来た。 人が忙しそうに歩き回っていて、 思ってたより栄えてるようだ。  この国は鉄鉱山が多くて、昔から良い 武器や甲冑を作る事で有名だった。 ただ、最近は軍隊を増強してるって 噂が絶えないんで、周辺の大国 特にシャーマン国が警戒してるらしい。  戦争が終わっても、火種はその辺に ゴロゴロしてるんで、 情報を仕入れとくのは常識だ。  受付会場に行くと、いるわいるわ 人間品評会みたいなもんだ。 子供からジィさん、ヤクザみたいなのも かなり混じってる。 「どけ!どけ!!」 兵隊がぞろぞろ出てくると、俺たちを 若いヤツらだけ乱暴に選り分けて、 いきなり走るように命令された。 おいおい、これはテストか?  広場に着くと、半分ぐらいの連中が 到着した所で兵に遮られ、 遅れたヤツらは乱暴に追い返された。  ざわついている俺達の周りを 兵士が取り囲んで、命令した。 「静かにしろ! 」 徐々に静かになると、楽隊が現れて 仰々しい曲を演奏し始めた。  すると立派な馬車の中から、 いかにも貴族な感じの若い男が ゆっくりと壇上に昇った。 「私はメーリフ・ド・フォークだ。  諸君、ようこそ集まってくれた。  心から歓迎する」 長い金髪に整った顔立ちだが、 偉そうな態度が口元に現れていた。 何となく、犬か狼を連想させる男だ。 「これから選抜を行う。  氏名と年齢を・・・」 メーリフが説明を始めた時、前にいた 男が聞いた。 「特典って何だ!  金か!  1万Gぐらいか?」 メーリフは嫌そうな顔をすると、 兵士にアゴで合図を送った。 すると、兵士たちがそいつを何発も 殴りつけて運び出した。 「人の話は黙って聞け、と  教わらないかったのか?  全く・・・」 面倒になったらしく、壇上から降ると 代りに部隊長らしい大男が でかい声で話を続けた。 「お前らは石だ!  その辺に転がってる石ころだ!  中には、火打石や鉄になる石もある!  お前らがどちらか、決めてやる!  しかし、だ!  石ころに違いは無い!  黙って御国のために働け!」 一斉にザワザワし始めると、周囲の兵が 槍の柄でヒソヒソ話してる連中を 殴りつける。 「石が騒ぐな!」 ピタッと静かになった。  テストは一応、まともに行われたが、 ヤクザっぽい連中だけが、まとめて 連れられて行かれたのが気になった。  目立っていたのは、 ベルトーク・フォン・マイヤーと シェッケル・ゼナーの2人だ。  マイヤーは[アイスマン]の 呼び名で有名な、隣国シャーマンの ディフェンダーだ。  何でルウム国の選抜に参加してるのか 謎だが、銀髪で表情も性格も固そうな 男だ。  ゼナーは、前回の大会で最下位の 亡サーマス国の選手だった奴で、 チームカラーのブルーから青矢、 [ブルー・アロー]と呼ばれていた。 素早い飛出しに定評があったからだ。  ただ、まだまだ子供っぽくて、 くるくるした茶色の巻毛と、 おどおどした態度が目立つ。  俺も、敵ディフェンダーの裏へ出す スルーパスを連発し、注目された。  それを見ていたメーリフが 近衛兵を連れて、俺に近づいて来た。 「どこかで見た顔だと思ったら  ピンク・パッサーじゃないか。  故障持ちが、何をしてるんだ?」 「・・・」 「ふむ? 噂ほど  喧嘩っ早いわけでは無いようだな。  万が一、採用したら捨て石らしく  しっかり働けよ」 メーリフが大笑いして、去って行くと 俺の隣の黒人が、話しかけて来た。 「おい、言わせといて良いのか?」 「ムダな事はしない主義でね。  お前、俺が騒ぎを起こして  脱落する事を期待してたんだろう?」 肩をすくめながら俺が答えると そいつも、肩をすくめて小声で言った。 「俺が抜け出したいぐらいだよ」 目を見交わした後、ニヤッと笑うと 握手のために、手をさし出す。 そいつは陽気に言った。 「俺はボーンズ、ボーンズ・リベラだ」 「ホーク・アルカンドだ」 「ホーク?  フォークに似てるな」 「あんなのと一緒にすんなよ」 握手しながら、俺がイヤな顔をすると、 楽しそうにバンバン俺の背中を叩いた。 「そこ!静かにしろ!」  夕方、テストの合格発表があって 俺とベルトーク、シェッケルにボーンズ が採用された。  用意された宿で一泊した後、 チームメイトと顔合わせに ミーティング室へ行くと、 監督らしいよぼよぼのジジィの隣に、 メーリフが偉そうに座って こちらを向いていた。  窓際の連中は、ニヤニヤ笑って俺達を 見ていたが、いかにも貴族って感じで 見下してる感じがメーリフと似ている。  後ろの方に、独りで窓の外を見てる奴 がいる。 線が細くて、チビっこく子供みたいだ。 俺達が入ってきても、無関心だった。  少し離れた所に、禿げ頭で 目付きの悪い男が座っている。 妙に張り詰めた雰囲気で、 なんかヤバい感じがするヤツだ。  最前列に、老けた感じの大男がいる。 ユニフォームはゴールキーパーだが 茶色の髪にヒゲモジャの顔で、 表情が読めない。  前の空いている席に座ろうとすると、 ニヤニヤしていた男の一人が言った。 「おい、お前らはあそこだ!」 そう言って、後ろの端の席を指差した。 「どこに座ろうと勝手だろ?」 「上座と下座も知らないのか?  勉強してない奴は、これだからな」 ムカッと来て、何か言い返そうとした時 ベルトークが止めた。 「相手にするな」 俺は深呼吸すると、後ろの席に乱暴に 座った。  監督がモゴモゴと話していたが 何も聞こえない。 「聞こえないぞ!」 俺が怒鳴ると、 メーリフが偉そうに言った。 「ここは静かに聞く所だ。  騒ぐなら出て行け」 俺は我慢しながら聞いてると、 最後にメーリフが続けた。 「今度の大会は、  絶対に勝たねばならん!  諸君らの働きに期待している!  以上だ!」  安宿に帰ると、俺はベッドに 倒れ込んで叫んだ。 「何なんだ!  あの貴族ボンボンどもは!  ちっとも球を受けに走らないわ、  疲れたら勝手に休むわ!」 シェッケルが続けた。 「仕方無いよ。  姫目当ての連中だし・・・」 俺は起き上がって言った。 「姫?  そりゃ何の話だ?」 「え?  知らないの?」 ボーンズが引き継ぐ。 「おいおい、おめでたい男だな。  婿探しをしてるのを知らないのか?」 「・・・聞いた事はあるが」 実は、全然知らないが、強がってみた。 「先月、ここの王子が事故死しただろ?  そのせいで王位継承の問題が  起きてんだよ」 さっぱり分からん。 「それが、何の関係があるんだ?」 「げっ!  全然知らないんだろ!  今度の大会で優勝したら、  選手の中から姫の結婚相手を選ぶ、  って、おふれを出したんだよ!」 「つまり、優勝すれば王様に  なれるんだ!」 シェックが嬉しそうに言ったが ベルトークはこの間、黙っていた。 俺は驚いて聞いた。 「おいおい、ムチャな話だな?  大体、姫は二人ぐらい居ただろ?」 「まあ、可能性の話だがね。  俺は無理だろうが、  何か恩賞は貰えるだろうしな」 ボーンズが肩をすくめながら言った。 俺は、もっとムカつく理由を言った! 「メーリフの野郎は、何様なんだ!」 ボーンズの説明によると、 フォーク公爵家の跡取息子だそうだ。  あいつが姫の有力候補だったが、 フォーク家の力が強くなり過ぎてるんで 苦肉の策を立てたらしい。 「ふーん、でも優勝しなくても  メーリフが候補なのは同じだろう?」 「だらしない試合をしてたら、  評判が下がるからな。  奴さんも必死になるさ」  それから3日間、イライラしながら 過ごした。  メーリフは選手としては、マシだが 勝手に仕切るわ、球を集めるよう命令 するわ好き放題だ。  子供みたいな奴は、 フェレット・コスタてな名前で 女の子みたいな綺麗な顔をしていた。 だが、ドリブルが凄く巧くて、 ほとんど誰も触れずいた。  いずれ、スター選手になる事は 間違い無いが、まだスタミナ不足だ。  禿げ頭は、ブーマ・ネッツアー。 何だか球の扱いはド素人って感じだが、 敵をマークするのは巧い。 後ろに近づかれても、気がつかないし 体を入れるのがおっ恐しく速い!  ヒゲ男は、ジム・クーパー。 10年間、代表でゴールキーパーを 勤めてきたベテランだ。 割と気の良いオヤジだが、無口な ベルトークと、いつもやり合っている。 その他はイモばっかりだ。  戦術が何も無く、監督に聞いても 座ってるだけで役にも立ちゃしねぇ! それで俺が何か言っても、奴らは 無視無視無視!! しかも、つまんねぇ言いがかりで 喜んでいた。 ベルトークは[スパイ野郎] シェッケルは[チキン] ボーンズは[ニグロ] 俺は[カードマニア]だの お前らはガキか!!  いい加減、辞めてやろうか 考えていたら、急に監督が 更迭される事になった。  どうせ期待は出来ないが、 どんな奴か見てから決めてやる!  ミーティング室に行くと、 いつもと雰囲気が違っていた。 「遅いぞ」 そう言った男は、壮年だが 引き締まった体つきをしている。 鋭い知的な目に、白く太い眉、 刻まれた皺の深さに厳しさを感じる。 「イアン・ド・キャンドルだ。  前任のメディス氏は体調不良で  入院された」 静かな口調で続けた。 意外な事に、メーリフの奴が 黙って俺達と同じ側に座っている。 「これから全てを評価し直す。  今までの事は忘れるように」 俺は休憩時間に、ジム[親父]に 汗を拭きながら聞いてみた。 「あの監督、何者なんだ?  メーリフが黙って従ってるのも、  薄気味悪いしな」 「彼は、外務大臣の息子だからな。  大臣は高齢だし、何かと都合が  あるんじゃないか?」  それから1週間、体力面の基礎練習 ばかりが続いた。 柔軟体操ばかり続いたかと思えば、 筋力トレーニングとか、全く球に触れず 体操選手みたいな練習ばかりだった。  俺は、この筋トレと言うか フィジカル練習って奴が大嫌いで 半分サボりながらやっていたら、 ツカツカと監督が、俺の所に来た。 「やる気の無い者は、帰れ」 俺はムカついて、言い返した! 「俺は体操選手じゃねェ!」 「帰れ、と言ったはずだが?」  一斉に嘲笑が起こり、俺は怒りで 練習場を後にしながら、 近くのゴミ箱を蹴りつけた!  街で酒をヤケ飲みした後、宿に戻ると 入口でボーンズが待っていた。 「お前、ホントにガキだな?」 「ケッ!  放っとけ!」 「辞めるのか」 ボーンズが真剣な顔で聞いた。 「ああ、辞めてやらぁ!  これでやっと、せいせいすらぁ!」  ボーンズは何も言わず、部屋に 戻って行った。 俺は、その背中に向かって叫んだ。 「競争相手が減って、嬉しいだろ!  ええっ!?」 だが、奴は振り向かなかった。  俺が、かったるい練習に遅れて グラウンドに行くと、 キャンドル監督が厳しい顔で、 ツカツカと近づいて来た。 また辞めろ、って言われるのか? 自然と口元に、苦笑いが浮かんでくる。 監督が厳しい顔で言った。 「君の選手生命は、終わっていない。  まだまだやれるし、  私は君に期待している」 予想外の言葉で、俺は呆気にとられた。 周囲で様子を見ていた連中もだ。 メーリフなんか、馬鹿みたいに 大口を開けて、慌てて近寄って来た。 「キャンドル!  本気か!」 監督はメーリフを睨み、手で追払った。 「休め、と言った覚えは無いが」 不満たらたらな顔で、メーリフが戻ると 監督が俺を見て言った。 「遅刻は10分だ。  罰として20分メニューを追加する。  それと別メニューもだ」  毎日毎日、きつい基礎練習が続いた。 俺はコーチのメニューに従い、黙々と トレーニングに励んだ。 監督は時々様子を見に来ては、 コーチと俺に指示を出した。  2週間後、他の連中と同じメニューに 合流した だが俺への要求は厳しく、小さなミスも すぐ止められて指摘された。 もっとも、全員言われてたがね。 少し疑問だったのは、フェレットが 明らかにスタミナ不足なのに、 全くフィジカル強化の練習をさせて いなかった事だ。  監督が言うには、まだ子供だから 無理をさせないそうだが、貴族だから 甘やかしてるだけじゃないのか? 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