:E 今日の相手はポールウィンだ。 やつらはバイキングの末裔、って噂だが そんな海賊は百年も昔の話だから、 見た奴はいない。  今日の貴賓席には王の隣に、 冷たい感じの女がいる。 王冠と宝石に固められた顔は、 無表情としか言いようが無い。 意外と若いようだが、誰だ? 「王の隣のは、お后か?」 ジム親父が短く返す。 「ああ、エリザベート后様だ」 無表情な后の隣に、同じように黙って 座ってる若い女がいる。 人形のように、なんとなくフィールドを 見てるんで試しに、曲芸みたいに リフティングをしてみたが反応は無い。  メーリフの奴が、大げさな身振りで 彼女に向かって声をかけた。 「おお!カシス姫!  私の活躍を見ていて下さい!」  カシス姫の隣にいた后が扇越しに 耳打ちすると、人形使いが人形を 動かしたように、姫がギクシャクと 乾いた笑いを浮かべて、手を振った。 何だか変な連中だな。 俺は、ジム親父に聞いてみた。 「なあ、何かおかしく無いか?」 「まあ、色々あってね。  お后様の御子は、カシス姫様だけに  なってしまったからな」 「何だか、ややこしそうだな」 「後で話してやるよ」  対戦相手が出てきたとたん、 会場がざわいて俺達の前に壁が そびえ立った。  でかい! 肩幅が広くて、縮れた赤毛が目立つ。 それに酒臭い。 大きいジム親父でも、小さく感じる程で フェルやシェックだと、まるで小人だ。 空中戦になると、厄介そうだ。 とにかく、全力で行くだけだ! :W2+WIN2,+LOSE2,+DRAW2, +WIN2 :FC1 :E 楽勝とは行かないが、まあ良いか。 控え室に戻ると、近衛兵に守られて カシス姫が待っていた。  ストレートの長く茶色っぽい金髪に 暗い湖のような青い瞳で、美人なのは 確かだが、どうも表情が固い。 何かを我慢してるような感じだ。  監督とメーリフが臣下の礼をとると、 俺たちも、慌てて真似をした。 彼女は、あんまりはっきりしない声で ぼそぼそ話し始めた。 「本日はご苦労でした。  次回の働きも期待します」 恥ずかしいのかと疑ったが、どうやら この汗臭い場所が気に入らなかった ようで、さっさとハンカチで口を押えて 立ち去った。 俺はムカついて叫んだ。 「何だ、ありゃあ?  だったら来るな・・・」 その途中で、監督が黙るよう合図した。 「口を慎め」 仕方なく黙ったが、気に入らない女だ。 :J+SKIP2 +LOSE2 :FC0 :E やっぱり負けた。 完全に競り負けてたから、仕方が無い。 メーリフが誰彼構わず文句をつけてるが チーム内の立場が悪くなるのに、 バカな奴だ。 :J+SKIP2 +DRAW2 :FC2 :E なんとか引き分けに持ち込んだが、 とりあえずは満足すべきだろう。 いよいよ次はシャーマン戦だ。 :J+SKIP2 +SKIP2 :VB1+SKIP3 :E 控え室から表に出ると、遠くから 衛兵に守られた美女がこっちを見てる。  軽くウェーヴのかかった長い金髪、 澄んだ青い瞳と、柔らかそうな唇に 優しい微笑を浮かべている。 俺はボーンズを肘でつついて聞いた。 「おい、あそこに凄い美人がいるぜ」 「ん・・・おっ!ウール姫だ」 「あれも姫か?」 「ああ、カシス姫は高根の花だからな。  ほとんどの連中は、  彼女が目当てらしいぜ」 俺は顎に手を当てて言った。 「俺でも、そうするね。  あんな面倒そうな女よりは、な」 :J+SKIP3 +SKIP3 :E 宿屋に戻る前に、監督が緊急会議を するって言い出した。 毎度だが、貴族と平民で分かれている。 キャンドル監督は、それを見ながら ため息をついて提案した。 「こんな状態では、試合に成らない。  そこで、2人部屋を割り当てるので、  親睦を深めるように。  別のホテルは、引き払って来たまえ」 一斉にブーイングが上がる中、静かに 監督が言った。 「文句がある者は、即刻帰ってもらう」 渋々だが結局、従った。  部屋割りは、親父とベルトークに メーリフとブーマ、 シェッケルはボーンズ、 そして俺は、フェレットと同じ部屋だ。  元の部屋の荷物を荷袋に押込んで、 割当てられた部屋の扉を開けた。 だが、目の前にあったのは壁だった!  部屋の真ん中に、椅子やら木箱が積み 上げられて、2つに仕切られている。 「・・・何だ、これは?」 思わず呆れていると、壁の向こうから、 フェルの声がした。 「右のそっちが、あんたの場所だよ!」 :M片づけろ!,+NEXT1,分かった,+NEXT2, +NEXT1 :E「嫌だ!!」 「ガキみたいな事言ってんじゃねェ!」 「だったら、ここから出て行く!」 それは構わないが、俺も責任は 取らされるかも知れないな・・・。 「ちっ、今回は許してやる!」 やれやれ、先が思いやられる。 :J+NEXT3 +NEXT2 :E恐る恐るって感じでフェルの声がする。 「・・・いいの?」 「仲良くやるのが目的だし、こんな事で  もめても意味無いだろう」 「そ、それも、そうだね」 おっ? ちょっと、刺々しさが消えたか? :J+NEXT3 +NEXT3 :E いよいよリーグ戦最大の難関、 シャーマンが相手だ。 ルウムとは隣国って事で、昔から仲が 悪くて、しかも国際試合では今まで ルウムは勝った事が無いらしい。  今大会も、もう2勝して相変わらずの 強さを見せつけている。  有名なのは[獅子皇子]、 ユルゲン・フォン・クリスチアン二世と 世界最高と有名なディフェンダー、 フランシス・バウアーの2人だ。  だが、このチームの本当の強さは 別の理由がある。 今日は珍しく、監督の演説があった。 「シャーマンに勝てない程度では、  優勝は有り得ないと思い給え!」 いつに無く気合が入っている。 それだけ因縁の対決だって事か。  今日は観客席にウール姫や、 若い娘が多く来ていて、手に花を持った まま、ソワソワと落ち着かない。 メーリフは、自分目当てと思ったらしく 色々ポーズを決めたりしていたが、 シャーマンの選手が現れた時、 理由が分かった。  鋭く光る緑の目に、豪奢な金髪を なびかせ、厳しい口元に ムチのように引き締まった長身の男。  ・・・こいつが[獅子皇子]か。  黄色い歓声と悲鳴が一斉に上がり、 花や帽子、ハンカチが彼めがけて 投げ込まれた。 皇子は慣れた態度で、鷹揚に手を振って 応えていたが、俺はその隣にボーッと 立っている黒髪の男、バウアーの方が 気になっていた。  背が少し高い他に特徴が無い。 何だか周りを見回しているし、 拾った花の柄をクルクル回している。 だが、シャーマンの選手でも 緊張しているヤツがほとんどなのに、 あの気合の無さが、妙に気になる。  急に皇子がこちらを向いた。 俺達なんか眼中に無い、て顔で順番に 観察していたがフェレットだけを ジロジロ見始めた。 なぜか、フェルも真っ赤になって うつむいてる。 まさか・・・。 こいつら、そんな趣味が・・・。 バウアーがベルトークに話しかけた。 「やあ、ベルトーク。  元気そうだな」 だが、ベルトークは蒼白な顔で バウアーを見返している。 「おや、挨拶も無しかい?  それとも、もう心までルウム人に  なったのか? 」 相変わらず、ベルトークは無言だ。 「それぐらいにして置け」 そう言って、皇子がバウアーを止めた。 こいつらには、何があったんだろう? とにかく、今は試合に集中しないとな。 :W3+WIN3,+LOSE3,+DRAW3, +WIN3 :FD1  信じられない! 観客も、優勝したような大騒ぎだ!  だが、負けたシャーマンの選手は、 何事も無かったように帰って行った。 連中にとっては、決勝トーナメントが 本番と言うわけだ。 ただし、皇子だけは悔しさ一杯な顔だ。 負けるのが絶対嫌い、ってヤツだな。 王が貴賓席から大声で叫んでいた。 「宴の用意だ!  戦士達に褒美を取らせるぞ!!」 :J+SKIP4 +LOSE3 :FD0  王は怒りのあまり、すぐに帰った。 だが、ウール姫は妙に嬉しそうで、 名残惜しそうに目で皇子を追っていた。 :J+SKIP4 +DRAW3 :FD2  なんとか引き分けに持ち込んだ。 終了のホイッスルが鳴ると、皇子が俺に 近づいて、握手を求めてきた。 「この決着は決勝トーナメントだな」 意外に子供っぽい笑顔だ。 :J+SKIP4 +SKIP4 :VB1,C1,D1+SKIP5 :VB1,C1,D2+SKIP5 :VB2,C1,D1+SKIP5 :VB1,C2,D1+SKIP5 :VB1,C1,D0+SKIP5 :VB0,C1,D1+SKIP5 :VB1,C0,D1+SKIP5 :VB0,C0,D0+SKIP6 :VB0,C0,D2+SKIP6 :VB2,C0,D0+SKIP6 :VB0,C2,D0+SKIP6 :E 結局、3位で俺達の大会は終わった。 もう少し頑張れば、とは思うが今さら 仕方が無い。 決勝は、前回と同じくアルゼルンと シャーマンが対戦して、 今回はシャーマンが優勝した。 「獅子皇子」と「神の子」の勇名は、 まだまだ続きそうだ。 俺は、今日もフィールドを走っている。 ― END ― :Q +SKIP5 :E控え室に戻ると、王の使者が明日 祝賀パーティを行う、と連絡してきた。 やれやれ、休む暇も無い。 :C/rom0/story5.txt +SKIP6 :C/rom0/story4.txt