:PEB0 :PEH0 :PEL: :PEM? :E ロッカールームに戻ると、 キャンドル監督が怒りを我慢しながら、 額に青筋をたてて切り出した。 「すぐに着替えて、集合したまえ」  表に出ると、ルウムの観客が石や卵を 投げつけてきた! 俺達は頭を庇って、待っていた馬車に 乗り込むと、御者が乱暴に出発させた。  皆、重苦しく黙ったままで 俺はなるべく軽く聞いた。 「どこに連れて行く気かな?」 だが、返事は無かった。  馬車がしばらく走ると、 人里離れた教会に着いて、入口に 立派な僧侶服の貧相な男が立っていた。  促されるまま中に入ると、何かの お香が焚き染められている。  首の後ろがチリチリするような、 危険な感じが漂っている。 監督が緊張した顔で説明した。 「これからは絶対負けられない!  そこで、ディッシュ司祭様と共に  必勝祈願をする。  全員、心して行うように」 俺は、疑問を聞いてみた。 「メーリフとフェレットがいないぜ?」 しかし、監督は奇妙な顔で言った。 「彼らは、怪我で出場出来ない」 さすがに何かを感じて、 全員ザワザワし始めた。 「静粛に!」 監督が一喝すると、静かになったが 目で見交わし合っていた。 「それでは、お願いします」 あの貧相な男が進み出た。 「・・・今回は残念だった。  だが、最悪の結果は避けねばならん。  共に、主に祈りを捧げよ」  それから、長くだらだらした呪文、 じゃない経を唱え始めた。 試合で疲れてる上に、唱和するのに 飽きて頭がボーッとしてきた頃、 ようやく終ったらしい。 全員に飲み物が配られた。 ディッシュ司祭が、暗い声で言う。 「・・・この[命の水]を飲み、  明日からの戦いに備えよ」 試合後で喉が渇いていたし、 やっと終れるって解放感もあって みんな、渡される杯を喜んで 飲み干していった。 :M飲む,+NEXT1,飲まない,+NEXT2, +NEXT1 :FE1 :E 赤色で、微かにリンゴっぽい匂いだ。 喉もカラカラに渇いてたし、 一気に飲み干した。 しばらくすると、妙に体が熱くなり力が みなぎってきた! それに気分が良くなってきて、 どんな敵にでも勝てる気がする! 司祭がつぶやいた。 「・・・これからは、試合前にも飲め」 監督が深刻な顔をしてるが、 これなら神様にも勝てるぜ、おい!! :J+NEXT3 +NEXT2 :FE0 :E死ぬほど喉が渇いていたが、 どうにも怪しすぎる。 俺は喉がヒリつくのを我慢して、 杯を見つめていた。 それを見とがめた司祭が近寄って来た。 「・・・どうした。  飲め」 他の奴らが叫んだり暴れたりしてるのに 信用できるか! ためらっていると、 ボーンズが俺の杯を奪った。 「よこせ!」 美味そうに飲んでしまうと、 憎々しげに、ディッシュ司祭は ボーンズを睨みつけていたが 俺に向かって呟いた。 「・・・苦しむのはお前だ・・・」 :J+NEXT3 +NEXT3 :E 宿へ戻ると、部屋のガラクタと フェルの荷物は片付けられていた。  みんな、出払ってるのか妙に静かだ。 外からの風が流れ込んで、壁のロウソク の炎が揺れている。 窓がわずかに開いて、人の気配がした。 ミリアだ。 :VA0,E1+NEXT4 :VA1,E0+NEXT5 :VA0,E0+NEXT6 :E 体中が凶暴な力に満ちている! 彼女が近づいて来る前に、 俺は堪えられず飛びかかった! 彼女は、逃げる様子も無く笑っていた。 「せっかちねぇ?」 だが、俺が乱暴に彼女の服を 脱がせようとすると、様子がおかしい 事に気がついて抵抗した。 「ちょっと!  お酒でも飲んでるの?」 だが、俺の頭の中は真赤に染まって 何も分からなくなった!  ・・・気がつくと、いつの間にか 寝ていたらしい。 夜中で見えなかったが体中のあちこちが ズキズキと痛むし、頭の中が二日酔い みたいにガンガン響いた。 ゆっくりと起きあがると、 手に冷たい肌の感触が当たる。 ミリアが、グッタリと横たわっている! 「おい、ミリア!」 俺は殺してしまったのかと慌てて、 ミリアを探った。 呼吸はしていて、ホッとしたが起き上がる 気配は無い。  白いシーツのあちこちに、月光で 黒い染みが見える。 ・・・血だ。 「ミ・・・」 彼女が急にパチッと眼を開けると、 俺の急所を蹴りつけた! 「グッ!」 俺が痛みでうずくまると、彼女も痛みで 呻き声をあげたが、苦しそうに呟いた。 「・・ディッシュに一服盛られたのね。  やっと本性を出してきたわ・・・」 そう言って体を引きずりつつ、 手近な服を着ると、よろめきながら 扉から出て行った。 :J+NEXT7 +NEXT4 :E 彼女が少しだけ嬉しそうに、 話し掛けてきた。 「予定通りね」 「ああ。  だが、あんまり良い気分じゃないな」 「じゃあ、楽しませてあげるわ・・・」 そう言うと、フッと 部屋のロウソクを吹き消した。 スルリと服を脱ぐと、月光で青白い肌が 浮かび上がる。 「マスクは取らないのか?」 「こうした方が燃えるのよ・・・」 その通りだった。 :J+NEXT7 +NEXT5 :E 体中がムラムラしている! 近寄ってくる前に、彼女に飛びついた! だが、軽くヒラリとかわされた。 「やけ酒でも飲んできたの?」 俺は、また飛びかかれるよう身構えた。 「逃げるな!」 「狼さんには付き合いきれないわ。  バイバイ」 彼女は身軽に窓際まで行くと、消えた。 :J+NEXT7 +NEXT6 :E 勝ち誇って彼女は言った。 「言ったでしょう。  勝てないって」 「周りが、ヘボばっかりだからな」 「人のせいにしてるようじゃ、  当然の結果ね」 くそ、嫌な女だ。 「あんたの希望通りで、  さぞ満足だろう?」 「ええ、その調子で最後まで頼むわ」 馬鹿にして笑うと、窓から消えた。 :J+NEXT7 +NEXT7 :VE0+NEXT8 :E 妙に喉が渇く。 だが、水や酒じゃ駄目だ。 あの[命の水]でないと・・・。 :J+NEXT9 +NEXT8 :E控え室では、薬を飲んだ連中は 意味不明の言葉を呟いている。 監督を、とっ捕まえて聞いてみた。 「おい!あの命の水って一体、  あれは何だ?  麻薬じゃないのか!」 だが、監督は俺の手を払いのけると、 「知らんな。それよりも、  今日の試合に集中したまえ」 こう言い捨てて、足早に立ち去った。 その背中に向かって叫んだ。 「それでも人間か!」 監督は後ろを向いたままで、 歩きながら言った。 「君に期待したのは、私のミスだった」 :J+NEXT9 +NEXT9  やがて、司教の一団が到着すると 我先に[命の水]を飲んで、 雄叫びやら猛り声を上げて フィールドに飛び出して行った。 :W4+WIN4,+LOSE4,+DRAW4, +WIN4 :E 何とか最悪の結果だけは免れた。 早速、チームは解散されて 俺はルウムを追い出されるように 後にした。 二度と、この国に来る事は無いだろう。 ― END ― :Q +DRAW4 +LOSE4 :E ついに、後一歩まで来てしまった。 いくら人間離れしたパワーがあっても、 ルールが守れないんじゃあ 犬に試合をさせてるようなもんだ。  宿にルウム人が押しかけて、口々に 文句を言っている。 このままでは危険だ、との判断から、 別の宿に移動する事になった。  裏口から、散り散りに馬車に乗り込み 宿へ向かったが、俺だけ1人で馬車に 乗せられた。 「おい、どこへ行くんだ」 御者の男は、曖昧に「ある御方」とだけ 答えて馬車を走らせ続けた。 暫く走った後、寂しい一軒家に着くと 降りるよう促される。  家に入ると、殺風景な部屋に 小さな丸いテーブルと椅子が2つあって 白いロウソクが立ててある。 その向こうに、黒いドレスを着た女が 立っていた。 そのシルエットに見覚えがある。 「ミリアか?」 「そうよ」 :VA0+NEXT11 :E 「でも、私はミリアじゃないわ」 そう言ってマスクを外した。 見覚えがある・・・誰だ? 貴賓席の場面が浮かび上がる。 無表情な、冷たく感じる女・・・。 「お后さんか?」 彼女は口元でニコッと笑った。 「無礼ね。  頭が高いのでは無くて?」 俺はゆっくりと、臣下の礼をとった。 彼女は笑いながら 「茶番をしてる場合じゃないわね。  大臣たちが、次の試合をどうするか  大騒ぎしてるはずよ」 そう言って、俺に立つよう合図した。 「でも、一杯ぐらい楽しむべきね」 そう言って、足元の箱から 一本のワインとグラスを取り出した。  俺はそれを黙って受け取ると、 彼女の椅子を引いて座らせ、 ワインを注いだ後、座って乾杯した。 「ルウムの、過去の栄光に!」 次も敗ければ、この国は終わりだ。 きっと、選手全員に恐ろしい刑が待って いるだろう。 「色々聞きたいことが有りそうね」 「まあね。  何でアンタが直々に実行してるんだ?  他にも、楽な方法があるだろうに?」 「この国の連中なんて、  誰も信用できないわ」 「なるほどね」 「理由は聞かないの?」 「教えてくれるのか?」 「試合の後・・・ね」 そう言って、彼女は右手を伸ばした。 「エスコートして下さる?」  俺はベッドの中で聞いた。 「脱出の手筈は、あるんだろうな?」 彼女は満足げな顔で答えた。 「勿論よ」 「・・・あんたはどうするんだ?」 「故郷のインダスに帰るわ  でも、途中まで一緒に行こうかしら」 「ずっと一緒に行かないか?」 だが、彼女は寂しそうに笑った。 「もう私は、オバサンだわ」 「俺は、本気だぜ?」 彼女は、少し考え込んでいたが、 「・・・いいでしょう。  でも貴方が言い出したんだから、  覚悟しなさいな? 」 と、苦笑いしていた。 「・・・エスカ姫はどうするんだ?」 「あの娘はもう大人よ。  王も罰したりしないわ」 他の貴族はどうかな? と思ったが、言わなかった。 :J+NEXT20 +NEXT11 :E「最後にお願いしてみようと思って」 「俺が、そんな話を聞くと思うのか?」 「そうだと思ったわ。  ほんとに古い男ね」 「性分だから、仕方が無いね」 「本当、仕方が無い人ね。でも、  そう言う男、嫌いじゃ無かったわ」 「な・・・」 その瞬間、背中と胸に鋭い痛みが走り、 俺の意識は遠くなった・・・。 ― END ― :Q +NEXT20 :E 不気味なほど晴れ渡った日だ。 今日、全てが終わると思うと、 思わずため息が出た。 試合会場では、集まっていた ルウム人の野次や脅しの声で一杯だ。 観客席は険悪な雰囲気で、 今にも暴動が起きそうだ。  俺達は護衛兵に守られて、 控え室に入ると、例の[命の水]を 飲んで、意味も無く叫んだり、 ケンカしたりと滅茶苦茶だ。 最後の闘いが始まった。 :W5+WIN5,+LOSE5,+DRAW5, +WIN5 :E 終了のホイッスルが鳴った瞬間、 相手チームの観客が、暴徒と化して なだれ込んで来た! 俺達は喜んでる暇もなく、慌てて 控え室に逃げ込んだ。  肩を叩き合って喜んでいると、 俺の後ろの誰かが言った。 「すまん」 俺は聞き返そうとしたが、 急に世界が反転した。 背中に針か何かが刺さった気が・・・。  周りで騒ぐ声がする中、 目の前が真っ暗になった。 ― END ― :Q +DRAW5 +LOSE5 :E 審判のホイッスルが吹かれた瞬間、 観客席から怒り狂ったルウム人の暴徒が フィールドに乱入してきた! 慌てて逃げ出すと、ジム親父が叫んだ。 「おい!こっちだ!」  俺たちがついて行くと、通路から 下水道に続く蓋を開けて 入るように指図した。 「ここでお別れだ。  元気でな」 他の連中は、適当に別れたが、 親父が俺の腕を引っぱった。 「おい、何だよ」 「黙ってろ」 有無を言わせぬ雰囲気で、臭い中を 黙々と歩くと光が見えて表に出た。 そこには小船に船頭がいて 俺と親父が乗り込むと、船を動かした。 俺は驚いて聞いてみた。 「あんたが共犯だったのか!」 だが、親父は黙ったままだ。 しばらく進むと、石橋の袂に馬車が 止まっている。 静かに船が岸に寄って、 俺達が降ると、また静かに船は去った。  馬車に乗り込むと、中にフードを 被った女が1人座っていた。 「予定通りだな」 俺は、声をかけたが深く顔を伏せる。 「おい、エリザベート?」 重ねて問うと、女が急に顔を上げた! 「エスカ姫!」 涙目だが、毅然とした態度で言った。 「母上を呼び捨てにするとは、  無礼であろう! 」 「おい、お后はどこだ!」 「・・・知りません」 「知らないわけ無いだろう!  何処にいるんだ?」 「私が聞きたいぐらいです!」 そう叫ぶと、泣き伏せてしまった。 「・・・おい、親父。  あんた知ってるんじゃ無いのか?」 親父は、険しい表情で黙ったままだ。  シクシク泣いている姫を乗せたまま、 馬車は走り続けた。 そして国境に来た時、親父が言った。 「エリザベート様は来ません」 それを聞いた瞬間、姫は驚いて 泣き止んだ。 「・・・お母様は何処に?」 「アルフレッド様の敵を取るために  大臣と刺し違える覚悟であります」 それを聞いた途端、姫は蒼白になって 失神した。  俺も驚いて固まっていたが、 親父が俺に言った。 「エリザベート様から伝言がある。  『エスカ姫を頼む』と」 「・・・勝手に決めるな!」  俺は、馬車の壁を殴りつけたが 急に、親父は馬車から降りた。 「おい、どこへ行くんだ!」 親父は、寂しそうに笑って言った。 「エリザベート様の最後を  見届けに行かんとな」 「捕まるぞ!」 「エスカ様を頼んだぞ」  俺も後を追おうとしたが、 倒れてる姫を見てしまい、その瞬間に ジム親父は人込みに消えてしまった。  結局、俺達は国外へ逃亡し、ルウムは 優勝したシャーマンに統合された。 噂では、獅子皇子とウール姫が結婚し、 平和にやってるそうだ。  それと、フォーク卿とディッシュ卿が エリザベート后の告発から、 選手に麻薬投与を行った件と、 アルフレッド王子暗殺の罪で 投獄されたらしい。  ルウム王とエリザベート后は、 元ルウム貴族に暗殺された、との噂だ。 で、俺はと言うと・・・ 「こんな不気味なものを、  私に食せ、と申すのですか!」 「贅沢言うなら、食うな!」 「ああ、王宮に帰りたい・・・」 「はいはい。  止めないから帰れば?」 それなりに、何とかやってる。 ― END ― :Q