:G/rom0/girl.fr :E 正装なんて、何年ぶりだろう。 首の蝶ネクタイが、窮屈で仕方が無い。 大体疲れてるってのに、 何で舞踏会なんかやるんだ?  会場に到着して、馬車から降りると、 立派なホテルに、着飾った貴婦人や貴族 ドレス姿の娘などが待ち構えている。  着くや否や、誉め言葉と質問攻めだ! メーリフは、自分の手柄とばかりに 自慢しまくり、ベルトークは若い娘に 囲まれて真っ赤になっている。 シェッケルは、ご婦人方のおもちゃに なっていた。  フェレットは・・・いない。 探してる間に、俺にも話を聞きに 来たんで、適当に受け答えしていた。  俺たち選手が指定席に座ると ふれ係が、王の到着を告げた。 登場の音楽が鳴らされ、上段の貴賓席に カシス姫、ウール姫の次に、 初戦で見た子供っぽい娘が順に着席し、 最後に、白髭の王と后が連れ立って 登場した。  一斉に臣下の礼を取った後、 王が簡単に演説した。 「皆の者、遠路はるばるご苦労じゃ!  我らの代表の活躍を祝うと共に、  末娘エスカの16の誕生日じゃ!  ルウムの繁栄に感謝するぞよ!」 一斉に拍手喝采が上がり、 王が鷹揚に応えている。  だが、楽しそうなのは王だけで、 女たちは、白々しい微笑のままだ。 特にエリザベート后なんか、 明らかに不機嫌な顔をしている。  その後、一通りの祝辞が述べられ、 選手が1人ずつ紹介された。 激励の挨拶の後、舞踏会が始まった。 :Mカシス姫,+NEXT1,ウール姫,+NEXT2,エスカ姫,+NEXT3,立ってる,+NEXT4, +NEXT1 :FF1 :E カシス姫の周囲には、メーリフに遠慮 してるのか、取り巻きがいない。  メーリフも安パイだと思ってるのか、 他の娘と踊ってばかりいるようだ。  俺は、じっと座っている姫に 近寄ったが、ピクリとも動こうと しないんで、わざと鼻で笑ってから 通り過ぎた時、呼び止められた。  カシス姫が、偉そうに顎をそびやかし 俺に聞いた。 「そこの平民。  何が可笑しいのか」 「別に笑ってなんか、いませんが?」 「ウソを申すな」 「これは失礼。  ただ、殿下が御可哀相で」 「可哀相、とは、どういう意味か?」 「いや、人形みたいに座ってらっしゃる  所を見ると、殿下はダンスが  お得意では無いと思って。  こういう場は、辛いんだろうなぁ?」 「何ですって!」 彼女は怒って、立ち上がった。 「そこまで言うならば、貴公のダンスを  見せていただきましょうか!  さぞや、下々の下品な踊り  なんでしょうね!」  俺はすかさず、カシス姫の手を取り ダンスホールへ行った。 彼女は手を握った時に、ビクッと 震えたが勢いもあったのか 黙ってついて来た。  そして、目を真ん丸にした連中の前で 音楽に併せて、見よう見真似でダンスを 始めたが、姫も本当に苦手だったらしい。 2人とも、かなり怪しいステップで、 周りからクスクス笑われてしまった。  彼女は恥ずかしさで真っ赤になって、 顔を俺の胸にうずめながら、半泣きに なっていた。 「もう死にたい・・・ 」 「俺も、こういうのは苦手だな。  一つ、下々のダンスってのを  披露してやるか! 」  俺は、壁に立って飲んでいた ボーンズに手振りで指示すると、 ヤツは頷いて、指揮者に近づいた。 一曲、切りが付いた時に指揮者から サッとボーンズが指揮棒を取上げて 派手に振り始めた!  楽団の連中は、戸惑ってたが 王がそれを見て言った。 「今日は無礼講じゃ!」  急に曲が激しい音楽に変わった。 あっけに取られてる老貴族を見ながら、 俺は彼女を振り回す。 姫も戸惑っていたが、俺が右へ左へ リードするうち、次第に楽しそうに 踊り始めた! 他の若い貴族も、年寄り連中が目を丸く する中、好きなステップで踊りだす。 「この、バカ騒ぎを止めなさい!」 エリザベート后の一喝で、静まり返って 面白がっていた王も、首をすくめた。 「今日の舞踏会は終了です。  早々に帰りなさい!」 后が凄い形相で、俺とカシス姫を睨んだ 瞬間、姫が急に震えだした。 だが、何故かは分からなかった。 :J+NEXTZ +NEXT2 :FF2 :E ウール姫の周囲は激戦区で、 一緒に踊ろうと男たちが群がっていた。 次々とあっちで踊り、こっちで踊りと 引っ張り回されている。  だが、かなり疲れているようだ。  俺は無理やり彼女の手を取ると、 人込みに引っ張って連れ去った。  男供が何やら喚いていたが、無視して 姫をベランダまで連れて行く。 「・・・強引ですのね」 息を切らして、彼女が俺をとがめた。 「必要な時だけな」 そう言って、近くを通ったボーイから シャンパンを2つ受け取り、 彼女に手渡した。 一気に1杯目を美味そうに飲むので、 俺の分を渡すと、少しためらった後に 受け取って大きくため息をついた。 「大丈夫か?」 「少し疲れたましたわ」 彼女は庭の噴水を見て、遠い目をした。 「皇子が気になる?」 俺が聞くと、ちょっと驚いたようだ。 彼女は、少し赤くなりながら言った。 「・・・分かってしまいました?」 「まあね」 「また今度、お茶会に招待しても  宜しいかしら?」 「姫のお望みのままに」 片膝をついて、仰々しく礼をすると、 何か可笑しいのかクスクス笑い出した。 :J+NEXTZ +NEXT3 :E エスカ姫は若い貴族を相手に、 あっちこっちで忙しく踊り続けている。 相当なスタミナで、一緒に踊っている 男たちの方が疲れてるようだ。  俺が近づくと、顔を見るなり表情が 固くなった。 誰かに似ている・・・。 「エスカ姫、初めまして。  いきなりで失礼ですが、  お伺いしたい事があるんですが?」 ますます険しい顔になり、 もっと確信が強くなる。 「兄弟がいらっしゃいませんか?」 いきなり姫がコケながら、 引きつった笑顔で答えた。 「え、ええ。  実は双子の弟がいますの」 「そうですか。もしかして  フェレット・コスタですか?」 「そう、そうです!至らない弟で  ご迷惑してらっしゃるでしょう?」 「いや、とんでもない。  じゃあ王位継承の件も解決ですね」 「えっ、いえ、そのー・・・。  複雑な事情がありますの。  それと、この話はチームでは内密に。  おほほほ・・・」 しどろもどろに答えている所へ、 彼女の後ろから、娘が駆け寄って来た。 「エスカ様!  それにホーク様も!」 いかにも気の強そうな瞳に、黒髪を ショートカットにした女性だ。  エスカ姫が、ホッと一息ついて 紹介した。 「ご紹介しますわ。  オストーア国アンガル公爵家のご息女  グレイス・アンガル様です」 「初めまして、ホーク様。お噂は、  かねがねお伺いしておりますわ」 エスカ姫とグレイスは、そう言った後に 何やらクスクス笑い合っていた。 「一曲、お相手いただけませんこと?」 そう言ってグレイスが誘ってきた時、 エスカ姫が少し、ムスッとした。 :Mグレイスと踊る,+NEXT11,エスカと踊る,+NEXT12, +NEXT11 :FF4 :E 「ええ、俺で良ければ」 エスカ姫の厳しい視線を感じつつ、 グレイスの手を取った。 「嬉しいですわ。  ホーク様と踊れるなんて!」 俺はそれどころじゃ無い、って気分で ステップを必死でなぞっていたが 彼女は楽しそうに、華麗に舞っていた。 「貴方も、彼女達と結婚したいんですの?」 「そうだな、俺は・・・。  サッカーがやりたいだけだ。  そして、いつか世界一の選手って  言われるのが夢なんだ」 「良いですわね。  男の人には夢があって」 「あんたは無いのか?」 「・・・」 急に彼女は踊るのを止め、俺の耳元に 顔を近づけて囁いた。 「明日の鐘8つの時間に、  広場の噴水前で待ってますわ。  その時に、見て下さいまし」 :J+NEXTZ +NEXT12 :FF3 :E「すいませんが、またの機会に」 グレイスの誘いを断り、エスカ姫に 尋ねてみた。 「踊っていただけますか?」 姫は嬉しいような困ったような 顔をしていたが、 「あら、振られちゃった。  今度はお相手して下さいましね?」 と、グレイス嬢は立ち去った。 「・・・一曲だけよ」 そして、俺の手を取って踊り始めた。 「姉様たちとも踊っていらしたの?」 「いえ、ダンスは得意じゃ無いんで  エスカ姫が最初です」 「あら、試合では凄く上手で  いらっしゃるのに?  少し練習すれば、すぐお上手に  なりましてよ」 「おっ、観てくれてるんだ!  それは嬉しいな」 「いつも観てますわ!  ルイーズ戦の・・・」 「おおっ!詳しいんですね?」 かなり知って無いと、分からない所だ。 「ええ!それに、40mも離れた的に  続けて5球も当てたでしょう!  あれは神業だと思いましたわ!」 「えっ?あれは練習中で、  見られないはずだけど?」 「あっ・・・そうそう!  フェレットから聞いたんですの」 彼女は苦笑いしながら、そう言った。 :J+NEXTZ +NEXT4 :FF0 :E 俺がヒマそうに立っていると、 有名なオペラ歌手、マリン・モアローが 近寄ってきた。 「踊らないんですの?」 「ええ、踊るのは得意じゃ無いんで」 「まあ、若いのにそんな事じゃあ  いけませんわよ」 ホホホと良く通る声で笑うと、 顔を近づけて小声で聞いてきた。 「それじゃあ、  アチラはお得意なのかしら?」 ・・・なかなか豊満な体だ。 真っ赤な唇の隙間から、 チロチロと舌が覗いている。 「まあね」 彼女は流し目で俺を見て笑うと、 隠しから鍵を取り出して、渡してきた。 「大通りのアレナ・ホテルへ来て頂戴。  楽しみに待ってるわ」 そう言って、小さく投げキッスをしつつ 去って行った。 :J+NEXTZ +NEXTZ :C/rom0/story6.txt