:E ついに決勝トーナメントが始まった。 ここから先は負けたら即終わり、って 重圧からか練習でも、 気合いが入り過ぎてるようだ。  ベルトークにしては珍しく、 ジム親父に怒ってるし、 メーリフはブーマに、文句を まくし立てている。 これは、部屋での態度が原因のようだ。  練習後、フェルが珍しく俺に近寄って 来て、腕を引っ張って外へ出た。 :FG0 :VF3+NEXT1 :VF4+NEXT2 :FG1 :E フェレットが俺に向き直る。 「これからが大変だけど、どうする?」 「別に。  いつも通りやるだけさ」 「そうじゃ無くて、貴族の連中だよ」 「お前も貴族だろう?」 「茶化すなよ。  何だか変だと思わないか?」 「そうだな。  何だかコソコソやってる気はするが」 「噂なんだが、貴族出身じゃない奴を  追い出す計画を立ててるらしい」 「またかよ。  今さら意味無いだろう?」 「そうでも無いさ。今からでも、  勝てば英雄になれるしな。  選手になりたい、なんて貴族の息子は  山ほどいるさ」 「なるほどね。でも、  何で教えてくれたんだ?」 「私はコソコソ、ウジウジした連中が  嫌いでね」 「ありがとう、注意しておくよ」 フェルが、ちょっと嬉しそうに笑った。 :J+NEXT5 +NEXT1 :FG2 :E「昨日は楽しかった?」 「今まで、失礼いたしました」 「えっ?」 「王族の方とは、知らぬ事とは言え、  失言の数々、どうかお許し下さい」 そう言って簡礼をすると、フェルは急に 哀しそうな顔になった。 「・・・今は選手の一人だ。  これからも対等に扱ってくれ」 「寛大なお言葉、有難うございます」 「・・・」 「ところで、何かお話があったのでは?」 「いや、いい・・・」 フェルは肩を落として戻って行った。 :J+NEXT5 +NEXT2 :E 何か怒ってるらしい。 ひと気の無い所まで来ると、フェルが いきなり俺の頬を引っ叩いた! 「何しやがる!」 「恥をかかせた罰だ!」 さっぱり分からない。 「何の話だ!?」 「グレイスと踊った事だよ!」 「それがどうかしたのか?」 「!!」 いきなり、掴み掛かって来た! 「痛ッ!止めろって!」 適当にいなしていたが、皇子との疑惑を 思い出した。 「まさか、お前・・・」 フェルがビクッとして、止まった。 目を伏せて、こちらを見ようとしない。 「・・・ホモか?」 フェルの力が抜けて、笑い出した。 「違う!  そのう、エスカが・・・」 「・・・?」 「・・・グレイスと付合うのは  止めて欲しいそうだ」 「そう頼まれたのか?」 「いや、そうじゃない、いや、  グレイスとだけはダメだ、  ・・・そうだ」 :Mそうする,+NEXT3,やなこった,+NEXT4, +NEXT3 :FG3 :E「分かった、分かった。  そう伝えてくれ」 フェルは、凄く嬉しそうな顔をした。 「ふう、エスカ姫は何がそんなに  嫌なんだろうな」 フェレットが真赤になっている。 「・・・何でお前が赤くなるんだ」 「い、いや。ホントにそうだな。  女って奴は、なぁ。  アハハハ・・・」 :J+NEXT5 +NEXT3 :FG4 :E「イヤだね。何で知らない女に  指図をされなきゃならないんだ?」 フェルはムッとした顔をすると、 「もういい!」 そう言い捨てて、荒っぽく歩き去った。 何なんだ? :J+NEXT5 +NEXT5 :VF4,G4+NEXT6 :VF0+NEXT20 :J+NEXT30 +NEXT6 :FH0 :E 時間に少し遅れて到着すると 赤い婦人帽に、赤いドレスの派手な 格好のグレイスが噴水の前で、 イライラした様子で立っていた。 「すまん、道が混んでて・・・」 「だらしない人は、嫌いよ」 きっぱり言うと、さっさと歩き出した。 「おい、待ってくれよ」 「・・・」 返事もせず、ひたすら歩いて行く。 「どこへ行くんだ?」  やはり返事が無い。 仕方が無いので、黙ってついて行くと 芝居劇場の前に立った。 有名な恋愛話の最終公演になっているが 俺は、こういうのは苦手なんだよな。 「・・・これを観るのか?」 すると、彼女は俺に席札を1枚渡した。 「席に座ってて」 「1枚だけ?」 「後で行くわ」  そう言って、人込みに消えた。 何なんだ?  中に入ると、まばらに客がいて オバさん連中が多い。 だがオバさんが、こんな夜中に 居るなんて珍しいな。 幕が上がり、劇が始まるとドレスを着た 男達がドタバタとダンスを始めた。 ・・・これは酷すぎる。 喜劇の間違いじゃないのか?  我慢しながら見ていたが、いきなり オバさんの黄色い歓声が上がった!  小柄だが、均整の取れた 白いタキシード姿の男が登場した。 顔もなかなかハンサムだ。 ん?あれっ?? ・・・グレイスだ!  頑張って、真剣に演技をしていたが、 空回りというか、浮いている感じだな。 幕が降りて、楽屋へ行くとグレイスは 男装のままだった。 彼女は、何となく仲間外れになっている 雰囲気がした。 「・・・行こう」  他の連中の、冷たい視線を受けつつ、 裏口から出た。  彼女はうつむいたまま、 しばらく無言で歩いている。 :M最高だった,+NEXT7,つまらん,+NEXT8, +NEXT7 :E「いやー、いい劇だった! 」 「・・・そう」 「きみの演技は、最高だったよ!  だが、他の連中は最悪だったな」 「・・・それだけ? 」 「え?  他に何かあるのか?」 「もう、いいわ」 彼女は馬車を呼び止めると、 「さよなら」と呟いて、去って行った。 :J+NEXT30 +NEXT8 :E「最悪だ」 「・・・そう」 「あれが、あんたの夢ってわけだ。  だが、あそこじゃ無理だな」 お互い、しばらく無言で歩いていたが、 呟くように話し始めた。 「・・・彼らのせいじゃ無いわ。  私の親が・・・いいえ、  私が悪いのかしらね。  親に内緒で入団した頃は、  もっと活気があったの。でも、ばれて  親と大ゲンカして・・・。  家出したんだけど、親が劇団に圧力を  かけてきて・・・。  主だった人は、どんどん辞めて行くし  私も今日、辞めたの・・・」  安アパートの一室に案内されて、 中に入ると舞台着で一杯だった。  椅子に座ってお茶が出されると、 二人とも無言で飲んだ。 「・・・もう疲れちゃった」 彼女はため息をついた。 :M帰る,+NEXT9,慰める,+NEXT10, +NEXT9 :FH1 :E「それじゃ、俺帰るわ」 俺は立ち上がった。 彼女は驚いたようだ。 「そんな、だって・・・」 「俺は人生相談係じゃ無いんだ。  聞いて欲しけりゃ、教会に行きな」 「待って!」 彼女は俺の腕にしがみつくと、 泣きそうな顔で俺を見た。 「さすが女優志望だな。  泣き真似も上手いもんだ」 すると、彼女はボロボロと泣き始めた! 「意地悪しないでよォ・・・。  ウッ、グスッ、ウゥ!」 そう言った後、俺にしがみ付いて ワンワン泣き始めた。 ふう、やれやれ。  仕方無く、肩を抱えて粗末なベッドの 所まで連れて行って座らせると そのまま、泣くに任せていた。 しばらく派手に泣いていたが、 少しずつ落ち着いてきて、 やがてシャックリと鼻をすする音だけが 部屋に響く。  俺は、背中を撫でてやりながら 優しく言ってみた。 「あんたには才能があるよ。  俺が保証する」  監督の受け売りだが、効果てき面だ。 俺を見上げて言った。 「ズズッ・・・ホントに、  ウッ、そう思う?」 涙でマスカラが溶けて、酷いもんだ。 「ああ、勿論さ」 「ウッ、お、お世辞でも嬉しいわ。  でも、ご免なさい。  服、汚しちゃったわ」 俺は肩をすくめた。 「どうせボロ服だから、気にすんな」 「あっ、洗うわ。  脱いで」 「別に良いよ」 「ダメよ!」  ベッドの上でバタバタしてるうちに、 成り行き上、やってしまった。 しかも、彼女は最初だった! マズイ!! :J+NEXT30 +NEXT9 :E「家に戻るのか?」 「・・・いいえ」 「だったら、他の劇団に入れば?」 「また、親に邪魔されるわ!」 かなりキている。 「落ち着けよ。  だったら、親と話せば?」 「分かったような事、言わないで!」 相当キてるな、こりゃ。 「あんな親、聞いてくれやしないわ!  帰って来い、さっさと結婚しろ!  いつも、そればっかり!!」  突然、安ベッドに伏せて泣き始めた。 やれやれ。 俺は、そっと扉を開けて退散した。 :J+NEXT30 +NEXT20 :FI0 :E そういえば、モアローが呼んでたな。 大通りへ行くと、イテリオ国で有名な アレナ・ホテルがある。 「凄ぇ・・・」  俺達の安宿とは大違いだ。 何となく面白くない気分で、 受付で聞くと、簡単に案内してくれた。 モアローが話をつけてたらしい。 男を連れこむのは、珍しくないんだな。  モアローは帰ってないので、 部屋で待ってるように言われた。 部屋に入ると、豪華な調度品があって 強烈なバラの香りが漂っている。  だが、酒とタバコのすえた匂いも 結構きつい。 :M部屋を探索,+NEXT21,座ってる,+NEXT22, +NEXT21 :E 興味にかられて、部屋を調べると 棚に酒瓶がぎっしり詰まっている。  ちょっと迷ったが、興味の方が勝って 机の引出しを開けると手帳があった。 ・・・ドキドキしながら開くと、 食事の予定がビッシリ書いてある。  メーリフや、マナドールもいた! 横にメーリフは「うるさい飢えた犬」 マナドールは「偉そうなチビ」と 添え書きしてある。  俺は・・・無い。 「どうも、見こみ違いだったようね」  驚いて振り返ると、モンローが 残念そうな顔で立っていた。 「憲兵に突き出さないだけ、  ありがたく思いなッ!」  俺から手帳を奪い取ると、言い訳する 間もなく部屋から追い出された・・・。 :J+NEXT30 +NEXT21 :E ソファに座っていたが、練習の疲れも あってウトウトしてしまった。  ・・・目が覚めると、もう真っ暗だ。 何時の間にか、毛布が掛けてあった。 テーブルの向こうに、座っている モアローの影が、ろうそくの炎で ユラユラ浮かんでいた。  小声で何かを唄っている。 古い民謡のようだ。 近づくと、こっちに気がついた。 「あら、起こしちゃったかしら?」 「毛布ありがとう」 「ふふ、どういたしまして」 酒瓶を右手に持ったまま、 ふらふらしながら立ち上がった。 「おい、飲みすぎ・・・」 言った途端、彼女が転びそうになって 慌てて支えた。 すると、彼女は酒臭い息を吐きながら、 俺の首に両腕を回して来た。 「んふふふ・・・  やっぱりイイ男ねぇ?」 トロンとした眼で、キスをしようと 腕に力を込めて来た。 「ちょっと、飲みすぎじゃないのか?」  彼女はちょっと重かったが、 何とか抱え上げてベッドまで運ぶと もつれながら、一緒に転げこんだ。 彼女が俺の服を脱がそうとしたが、 何だか手元がおぼつかない。 手が震えているようだ。 「アル中なのか?」  聞こえなかったように、ボタンを 外そうとするが上手く行かなかった。 :M今日は止める,+NEXT22,続ける,+NEXT23, +NEXT22 :FI1 :E 俺は、モアローの手をどけて 立ち上がった。 「アル中には興味無いね」 「そんなの関係無いわぁ。  続けましょおゆぉ」 何だか、ロレツも回らなくなっている。 「医者に行った方が良いぜ」  そう言い捨てて、部屋から出た。 階段を降りかけたが、何か気になる。  そっと戻ってみると、部屋のカギは 開いたままで、テーブルにモアローが 突っ伏すように寝ていた。 こぼすほど、グラスに酒が注いである。 「おい、飲み過ぎは・・・」  良く見ると、こぼれた酒が徐々に 広がってる。 ・・・血だ!!  彼女を慌てて抱き起こすと、手首を ナイフで切ってる! 意識が無いのか、グッタリして 何の反応も無い。 俺は慌てて傷口を押さえて、 医者を呼ぶように叫んだ! 「何を飲ませたかね?」 ジジィの医者が、俺を見て言った。 「勝手に飲んでたんだよ!」 「そうじゃない。  何か薬を使ったじゃろう」  そう言って、眠っている彼女の目蓋を 指差した。 「見たまえ、紫の斑点があるじゃろ?  ある種のキノコを食べると、  催淫作用と一緒に現れる症状じゃ」 「そんなの、初耳だ!」 「これを多用すると、  精神が参ってくるんじゃ。  二度と使うんじゃ無いぞ」 「俺じゃねェ!」  話を聞かずに、医者は出て行った。 扉の閉まる音に反応したのか、 モアローがうわ言を言った。 「・・・パパ、行かないで・・・」  切った方の腕を伸ばす。 俺が彼女の手を下ろしてやると、 うっすら眼を開けた。 「パパ・・・?」 「俺はパパじゃない」 「・・・パパじゃない・・・  ・・・じゃあ、オキャクサン?  また、ヘンな事するの・・・?」  様子が変だが、どうも子供の頃に 戻ってるみたいだ。 「いや、しない」 「しないの・・・?  オキャクサンなのに・・・?  じゃあ、アレ唄って・・・」 「アレ?」  試しにモンローが唄っていた、 民謡を口ずさむと、彼女はニッコリ 笑って、また眠りについた。 :J+NEXT30 +NEXT23 :E「ちょっと、待ってな」  俺は自分で服を脱ぎ始めた。 彼女は黙って待っていたが、何だか 怪しい笑い顔を浮かべている。 そして脱ぎ終わった途端、 激しく求めて来た。  だが、モアローは満足せずに 幾らでも求めて来る! 情熱的なんてもんじゃない、狂人だ!  俺は恐ろしくなって、彼女を 突き飛ばすと、服を引っ掴んで 逃げ出した!  ドアの向こうから、狂った哄笑が 何時までも聞こえてきた・・・。 :J+NEXT30 +NEXT30 :E トーナメント初戦は、 カメレオンが相手だ!  アルゼルンを破った勢いで、 無敗でトーナメントに来た強豪だ。 この「黒い刺客」達の人気は、 元奴隷層に凄い人気で、連中は 足が速くて、驚異的なジャンプが 出来るらしい。  しかも、エースストライカーの ロゼ・ミイラは40歳、って噂だ!  フィールドに出ると、ボーンズよりも 真っ黒な顔に、ギラギラした鋭い眼で 俺達を見つめている。 その中に1人だけ、ニコニコ笑っている 男がいた。  あれがミイラか。 なんだか拍子抜けだ。 だが、目を見て気を引き締めた。 あいつは・・・俺と同じ種類の人間だ。 :W6+WIN6,+LOSE6,+DRAW6, +WIN6 :E 勝った! 試合中は荒っぽい連中だったが、 今は気さくに、握手やユニフォームの 交換をしている。  ミイラが俺に近づいて来て、 低い声で「良い試合だった」と 右手を差し出してきた。 大きくて暖かい手だった。 :C/rom0/story7.txt +DRAW6 +LOSE6 :E 負けた。 決勝は、前回と同じくアルゼルンと シャーマンが対戦して、 今回はシャーマンが優勝した。 「獅子皇子」と「神の子」の勇名は、 まだまだ続きそうだ。 俺は、今日もフィールドを走っている。 ― END ― :Q